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重厚なドアがノックされる。
「どうぞ。」
返事を返すと、重々しくドアが開き、人影が入ってくる。
「ターナ様、アロン様からご伝令がきております。」
「まぁ・・じゃぁ、来たのね?」
「そのようです。」
「そう・・・じゃ、すぐに行くと伝えて頂戴。」
「承知いたしました。」
その人影、サンドはすぐに部屋を辞する。
ターナは窓から外を眺める。
「・・・そう・・・もうすぐなのね・・」
眼下に広がる魔界の風景は、いつものように穏やかであった。
「やぁ、よく来たね?」
「・・ああ・・・」
微妙に不機嫌そうに、王の間に入ってくる―俊。
「俊・・・」
「かあさん・・・」
「久しぶりね、元気だった?」
「ああ・・」
照れくさそうに、俊は目を伏せている。
「感激の親子対面は後にしてくれ、俊。」
「今回は何の用なんだ?」
「そんなに怖い顔するなよ。もう一人呼んでいるんだから。」
「もう一人・・?」
「ああ・・」
にっこりと微笑んだアロン。
俊を見守るターナ。
なんだかよくわからない俊。
三者三様の表情をしている、不思議な時間が流れる。
「いらっしゃいました。」
「通してくれ。・・・ああフィラも呼んでくれるかい?」
「承知いたしました。」
そうして、現れたのは
「お・・・前・・・なんで・・・?」
「真壁・・・くん・・・?」
蘭世であった。
「な・・な・・」
「お久しぶり、蘭世さん。」
「あ、フィラさ・・あ、王妃様・・・」
「いいのよ、フィラで。ね?」
「え・・・ありがとう・・・」
「どういうことだ?」
俊が少しだけいらだった声でアロンに問いかける。
「ま、ま、とりあえず座りなよ。」
「ああ・・」
「ほかの方々も・・ね・・」
促されるままにソファに腰掛ける面々を前にアロンは机から何かを取り出した。
「はい、俊これをあげるよ。」
「?・・・なんだ?」
「眼を通しておいてくれよ。」
ぱらりとそれをめくると俊は止まった。
「な・・なんだ・・これは・・・?」
「ああ・・・それはだね・・」
1.王家の婚姻について
1)王族に産まれしものすべてに関して、婚姻の儀は魔界城にて執り行われるべし。
2)結婚に際し、その婚姻の証となるべくを相手に捧ぐべし。
2.王家の・・・
「なんだこりゃ!!」
すっとんきょうな声を上げる俊。
そんな俊にターナがにっこりと微笑んだ。
「俊、貴方も王家の一員としてみなされるのだから・・・」
「じょ・・冗談じゃねぇ!!」
その冊子を俊はテーブルに置くといきり立った。
「俺は・・人間界で生きてんだ!!王家なんて・・」
・・・ただでさえ、結婚式だけでもこっぱずかしいっていうのに・・・
そう、ここのところ3ヵ月後に控えた結婚式の準備で忙しくいろいろと俊らしくないこともしているのだ。
教会へ行くだの。
服をオーダーするだの。
それでも、蘭世の喜ぶ顔を見るにつけ、我慢がなるのだが・・・
「俊、これは拒否は不可能なんだ。」
気の毒そうに、それでいて、少しだけ笑みを交えた表情でアロンは言ってのけた。
「例外は、ない。」
「お・・俺は王家のなんてそんな・・・」
「俊はそうなのかもしれないがね・・・」
アロンは続ける。
「蘭世ちゃんの家族は魔界の人間だ。それを忘れてはいまい?彼らはそれぞれの一族ではそれなりの地位の人だというのは知っているだろう?」
「う・・」
俊は黙ってアロンをにらみつける。
「俺が結婚する話なんて、魔界に流さなければいいだけだろう?」
そういうと
「それは無理な話だ。俊にはどれだけ縁談が持ち込まれたか知っているのか?それを断るのにどれだけ苦労していたか・・・」
ターナがすまなそうに微笑む。
「母さん・・」
俊は母親をみたあと、蘭世を見る。
「あ・・あの・・・私・・・・」
「ああ、蘭世ちゃんは気にしなくていいんだよ、フィラ、蘭世ちゃんに説明してあげてくれるかい?」
「ええ、アロン様、さ、蘭世さんこちらへどうぞ・・・」
フィラは蘭世をつれて部屋を出て行く、ターナも一緒だ。
そして部屋にはアロンと俊が残された。
「アロン・・お前は何を・・・」
「僕?教えられないさ、それは。フィラだけが知っていればいいものだからね。」
意味ありげにそう俊に告げるとアロンは立ち上がる。
「さぁ?俊は何を蘭世ちゃんに捧げるんだい?」 |